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Fintail Sound Archive Vol.8

深海アート生物図鑑 – 外来種コーナー 第一航海

ー世界の潮目で出会ったものたち

🪸 深海の耳

海は記憶を閉じ込めたまま、

透明な夢をいくつも抱えている。

私たちはそのひとつを耳に当て、

潮目の向こうから届く声に触れた。

そこで最初に見つけたのは、

光か、波か──まだ名前を持たない揺れだった。

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No.E1 琥珀脳サンゴ

モデル:Pierre Huyghe UUmwelt – Annlee (2018-2024)

海は夢を記憶するために、

自らの一部を透明にした。

そこに眠るのは、

まだ誰も思いつかなかった考えの種。

 

分類:鉱生軟質類

生態:半透明の外殻に守られた核は、周囲の光と熱をゆっくり蓄積し、やがて別の生物に渡す。活動時には外殻が淡い桃色から琥珀色へと変化する。

観察メモ:有機的な起伏と鉱物的な光沢が共存し、形態は生物的だが存在感は地質的。

Pierre Huyghe (2018-2024) UUmwelt - Annlee

Katja Novitskova "If Only I Could See What I've Seen with Your Eyes" (2017)

No.E2 多触肢通信機(タコマシン)

モデル:Katja Novitskova "If Only I Could See What I've Seen with Your Eyes" (2017)

その言葉は光の匂い、

その歌は螺旋の動き。

耳を近づけた者は、

自分の声が海に混ざっていくのを知る。

 

分類:半機械半生物種

生態:透明殻内に螺旋状の感覚器官と触手を持ち、光と匂いを使って他個体と交信。複雑な信号は時に遠く離れた海域にも届く。

観察メモ:冷たい機械構造の上に、生温かい内臓のような質感が載っている。人工と生物の境界をあえて曖昧にしている。

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No.E3 逃げ水クラーケン   

モデル:Katja Novitskova "If Only I Could See What I've Seen with Your Eyes" (2017)

深海はときどき、

人の街を覗きにくる。

湯気の向こうに、

海の呼吸が立ち上る夜。

 

分類:都市適応異海生物

生態:陸上の水場に現れ、数分間だけ触手を伸ばす。発見例は稀で、その後は水滴を残して消える。

観察メモ:日常的な空間に突如出現することで、現実感を攪乱する。触手は生物的だが素材は人工的。

Katja Novitskova "If Only I Could See What I've Seen with Your Eyes" (2017)

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深海アート生物図鑑・特別巻

海の覇者と棘の庭

ー 水深三十メートルの叙事詩

No.S1 牙将軍(Fang General)

 

海流の道をゆく百の影、

その中心に牙を持つ者。

誰よりも後ろで、

誰よりも早く動く。

 

分類:回遊魚綱・覇者属

生態:100匹以上の群れを率いる大型回遊魚。先頭から数匹後方に位置し、護衛の小型魚に囲まれる。威嚇時には水を裂く音を立てて接近し、敵意を示す。

棲息環境:海流の激しい深海岩礁域。

観察メモ:隊列の秩序は陸の軍事行進を思わせる。威嚇行動は稀だが、一度狙われれば近距離での退避は困難。

No.S2 棘の宮殿(Palace of Thorns)

 

白き枝は光を吸い、

触れた肌を離さない。

美はここで牙を持ち、

痛みの記憶を棲まわせる。

 

分類:造礁棘珊瑚類

生態:複雑な枝状構造を持つ白灰色の珊瑚群落。高流速環境でも根を張り、岩のような強度を誇る。棘に含まれる微細な生物膜は、傷口の治癒を遅らせる。

棲息環境:水深20〜40mの岩礁域。

観察メモ:見た目は静かで美しいが、接触すると鋭い物理的損傷と化学的刺激を与える。

​🤿

現地記録(ダイバー・Mの証言):

海の小さな面会者たち

ー 深海の廊下で出会う者たち

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No.M1 威嚇丸フグ(Puffer Sentinel)

 

空気を吸って大きくなったら、

行く手を塞ぐ壁になってしまった。

息をひらひら吐きながら、

その場に留まる勇敢な囚人。

 

分類:膨張防御魚類

生態:危険を察知すると体を膨らませ、全身を棘で覆う。膨張中は遊泳能力が著しく低下し、その場で漂うことしかできない。

観察メモ:防御と行動停止が同時に発生する珍しい防衛戦略。

No.M2 凝視するクマノミ(Stareback Clownfish)

 

海はすべてを映す鏡、

だが、この目はあなたを選んで見る。

逃げても追ってくるのは、

視線の記憶。

 

分類:共生凝視魚類

生態:イソギンチャクに棲み、訪問者と目を合わせる。人間を明確に識別し、同じ場所でじっと見つめ続ける行動が観察される。

観察メモ:自然下では高い対人認識能力を示すが、水族館環境では視線回避傾向が強い。

No.M3 爪サイズの凝視者(Minutefin Watcher)

 

体は爪ほど、

目は世界ほど。

大きな瞳に映るのは、

あなたの全身と、通り過ぎた時間。

 

分類:微小凝視魚類

生態:全長1cm以下で、体の半分近くが眼球。周囲の動きに敏感で、接近者の顔全体を視界に収める。

観察メモ:小さな体に反して観察範囲は広く、視線を合わせた際の存在感は大型魚にも劣らない。

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